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1979年に公開されたアニメ映画『ルパン三世 カリオストロの城』は、言わずと知れた宮崎駿の初監督作品である。

1979年に公開されたアニメ映画『ルパン三世 カリオストロの城』は、言わずと知れた宮崎駿の初監督作品である。

 現在DVDやBlu-rayで気軽に見ることの出来るパッケージ・ソフトの発売レーベルは【スタジオジブリ】だが、この映画の初公開時にはまだ設立には至っておらず、製作は東京ムービー新社とクレジットされる。そして、監督としての宮崎駿の原点をしっかり見ることが出来るという意味で、日本映画史において重要なアニメーション作品と言えるだろう。

 オープニングタイトル前に、ルパンと相棒の次元大介がカジノから大金を奪い、逃走する場面から快調な滑り出しだ。その奪った金が偽札とルパンが見破ることが、後半への伏線になっている。パンクしたタイヤの修理中のひと休みの二人の前を、1台のシトロエン・2CVと思しき車が追い越していく。運転しているのはウエディングドレス姿の少女、ここから見せ場のカーアクションが始まり、大人も子供もワクワクとなるのである。
 空への憧れの強い監督は、いわゆる飛翔の感覚に優れ、そのためスカイ・アクションが上手いとされるが、どうしてこの崖っぷちで展開されるカーアクションも見事の一言。

 あのハリウッドの冒険活劇の巨匠、スティーブン・スピルバーグ監督が“完璧なカーチェイス”と絶賛したとの伝説が残っているが、まさに、この場面にこそ、宮崎駿がアクションを見せる、【映画の構図】を知り尽くしていることがよく分かる。
 やがて、その才能は『風の谷のナウシカ』をステップとして、次の『天空の城ラピュタ』において爆発し、多くの観客を驚愕させることになる。これこそが【世界のミヤザキ】の映画史のスタートという訳である。

 シトロエンを運転していた少女クラリスが気絶したことを知ったルパンが、車に乗り移り間一髪助ける場面と、後半にも登場する彼女を抱きかかえたまま、ロープ一本で助ける場面こそ、前年に日本で封切られた『スター・ウォーズ』の、ルーク・スカイウォーカーとレイア姫のアクションへのリスペクトとも受け取れる。ここに宮崎監督の豊かな発想を感じるのである。
 極悪非道のカリオストロ伯爵に捕まったクラリスが着る、シンプルな白のブラウスこそ『ローマの休日』のオードリー・ヘプバーンが演じた、アン王女のイメージに他ならない。これもまた、素晴らしいインスパイアではないか。
 この様に、この作品には宮崎駿の映画・映像の原体験が数多く披露されているのである。

 例えばルパンが泥棒ではなく某国のスパイとするなら、カリオストロ城へ湖から潜入し、潜水服を脱ぐ場面など、まさに『007』そのもの。伯爵に仕える気味の悪い執事ジョドーが指揮する暗殺団「カゲ」は、仮面ライダーにおけるショッカー軍団だ。
 そして、主人公が傷つき(この場合はもちろんルパン)、一旦体を休める様子が出てくるが、これこそ日本映画界最高のアクション監督黒澤明の『用心棒』で描かれたシチュエーションではないか。この休息を経て、いよいよクライマックスに向かうという訳である。

 監督が、冒頭のカーチェイスも含め、ここぞという場面で使っているのが、【縦の構図】と【ロングショット】である。遠近法で奥から手前までの動きで描く縦の構図は、アクション演出の重要な手法。そして、劇中一番効果的なロングショットこそ、時計台の3と9の針の先にいる伯爵とルパンを捉えた場面。映画が映画館で上映されることを前提にした【引きの画】こそ、まさに映画の醍醐味なのであり、これはそのお手本と言えるのです。

代官山 蔦屋書店 映像担当コンシェルジュ

吉川 明利(よしかわ・あきとし)

小学校6年で『若大将』映画に出会い、邦画に目覚め、中学3年で『ゴッドファーザー』に衝撃を受け、それからというもの“永遠の映画オヤジ“になるべく、映画館で見ることを基本として本数を重ね、まもなく49年間で10000本の大台を目指せるところまで何とかたどり着く。2012年より代官山蔦屋書店映像フロアに勤務。

撮影:清水 祐生