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パトリス・ルコント監督作品が日本に本格的に上陸したのは、1990年の『髪結いの亭主』からである。

パトリス・ルコント監督作品が日本に本格的に上陸したのは、1990年の『髪結いの亭主』からである。

それ以前は、よほどのフランス映画通でなければ、監督の名前は知らなかった筈である。

ちょうどその頃、渋谷にあって文化発信の拠点を担って出来た映画館【渋谷Bunkamuraル・シネマ】で上映され、その作風と映画館の雰囲気がぴったりとマッチし、多くの女性客を集め大ヒット、監督の名前は一躍映画ファンの間で知られるようになった。

男女の恋愛の不思議を描いたことでルコント監督は、続いて公開された『仕立て屋の恋』と共に、恋愛映画ジャンルの作品ばかりが注目されがちだが、この『タンデム』の他にも『列車に乗った男』『ぼくの大切なともだち』など、実は男同士の友情物語も得意なのである。

『タンデム』は、本国での公開は『仕立て屋~』の前年の1987年。高い評価を得て、監督の名前をさらに広めた1作。日本では製作自体はこちらの方が3年も早かったのだが、『髪結い~』の興行的成功で、ようやく陽の目を見たわけである。

25年も続くラジオ番組の司会者と、その番組ディレクターの、スタジオを飛び出しての【ドサ回り】の収録旅行。エンストを起こすこともあり、かなり年季の入った車での2人旅は、番組に予算がないのが一目瞭然である。

しかし司会者のミシェルは、お構いなしに収録を終えると街のカジノに行き大損するわ、酒を飲むわで、ディレクターのリヴトとは、いつも喧嘩ばかり。そして、一緒にいるとは言え、それぞれ相手に対し秘密も抱えている間柄でもある。

やがて番組打ち切りの話が持ち上がるが、リヴトはそのことをミシェルに言い出せないで、ひたすら隠そうとする。一方ミシェルは長旅の疲れと不摂生で度々倒れ、リヴトに助けられる。

こうした数々の場面で、喧嘩しながらも孤独を抱えた二人の男たちは、お互いが必要だということを巧みに描き、フランス映画が得意とする人生の悲哀と孤独をさりげなく見せた傑作である。

ミシェルを演じるフランス映画界の重鎮ジャン・ロシュフォールと、ルコント監督とは、この作品以降は盟友とも言える存在となり、2002年の『列車に乗った男』まで計6作もコンビで映画製作、一度見たら忘れられない大きな鼻に特徴があり、醸し出す雰囲気はお洒落なパリジャンそのものである。この作品でリヴト役のジェラール・ジュニョと共に、フランのアカデミー賞である「セザール賞」の主演男優賞のWノミネートの快挙を果たしたのである。

番組打ち切りを逃れた二人が、次の収録旅行のために使えることになった車がシトロエンのCX。リヴトが最新型のその車に腰掛け、子供のように喜ぶシーンは印象的。それまで使っていた車とは雲泥の差で、操作の仕方も違うようで、突然ワイパーが動いたりして、リヴトが慌てる場面は微笑ましい。

映画の最初と終わりに印象的に流れる、イタリア語で歌われる主題歌「俺の隠れ家」のサビの歌詞“俺の隠れ家は、君さ”というフレーズが、この映画の中の二人の男の心情を見事に表しており、あまりにピッタリなので驚くが、それもその筈、この曲は映画のための書下ろしであった。

代官山 蔦屋書店 映像担当コンシェルジュ

吉川 明利(よしかわ・あきとし)

小学校6年で『若大将』映画に出会い、邦画に目覚め、中学3年で『ゴッドファーザー』に衝撃を受け、それからというもの“永遠の映画オヤジ“になるべく、映画館で見ることを基本として本数を重ね、まもなく49年間で10000本の大台を目指せるところまで何とかたどり着く。2012年より代官山蔦屋書店映像フロアに勤務。

撮影:清水 祐生