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2019年に100周年を迎えたフランスの名車、シトロエン。

その歴史はほかのどんな自動車ブランドよりも知的で、そしてロマンティックである。

今や自動車産業のグローバル化は当たり前のこととなり、お国柄を標榜するメーカーはどんどん少なくなっている。そんな中、デザインはもちろんメカニズムや機構などを含め、今でも「フランスらしさ」を謳い続けているのがシトロエンというブランドである。創業者のアンドレ・シトロエン(André Citroën)は、ブランドロゴにもなっているダブルヘリカルギア(やまば歯車)の製造と砲弾製造で財を成した実業家であった。自動車製造の後発としてスタートしたシトロエン社は、ヨーロッパにおける自動車の大衆化を目指してパリ・セーヌ川のジャヴェル河岸に工場を構えたのが1919年のことであった。

アンドレは広告宣伝の分野でも類いまれなる才能を発揮した。本書にある一つの例を紹介しよう。
創業間もない1922年、新型車Type C(5CV)の発表時において、アンドレ・シトロエンは初期モデルのボディカラーをイエローに統一して、それを「プティ シトロン」と名付けることを指示した。シトロンとはフランス語のレモンを意味するが、アンドレのアイデアにより、このボディカラーをまとった新型車を「可愛らしいレモン」と呼ばせることに成功。フランス的モーターリゼーションを踏まえ、革新的なプロモーションを狙っていたアンドレの戦略ターゲットはズバリ女性層であった。シトロエンと似た「シトロン」という音の親しみやすさにより、結果的に5CVはおしゃれな若い女性たちの注目を一身に集めることになる。
また1925年アールデコ博開催時には、エッフェル塔に25万個の電球を使ってCITROËNの7文字を描いたこともある。40km以上も離れた場所からもしっかりと読めたこの広告は好評を博し、10年以上も続けられることになった。

当時ファッション分野ではココ・シャネルが活動しやすさにこだわった革新的なスタイルを次々に発表し、コルセットで締め付けられていた女性を心身ともに開放し始めていたとき。世の中を魅了する斬新さという点において、この時代のシトロエンは自動車界におけるシャネルのような存在だったのかもしれない。



この「100年のシトロエン」は、あまり車に興味のない方々からも高い評価をいただいています。取材も多岐に渡っており、自動車誌のジャンルに留めておくのはもったいないほど。

目次を飾るタイトルを少し紹介してみましょう。

・プロヴァンスはカタツムリの歩調で旅したい 2CVこそ最適なパートナー

・昭和の幕開け前夜 日本におけるシトロエンの新聞広告

・タンタンとシトロエン 世界中で愛されるTINTIN の名脇役

・フランス大統領の専用車 シャルル・ド・ゴールの命を救った車

・Vive le Citroën! 本場クラブ&イベントへの誘い
 
100年を経ても、いまだおしゃれで、しかも革新的であり続けるシトロエンのある世界。
どうです、読んでみたくなりましたか?

オクタン日本版 編集長 

堀江 史朗(ほりえ しろう)

英国の出版社と契約してOctane誌の日本版「オクタン」を2013年より発行。国内外の様々な取材経験を踏まえて、自動車を通じた豊かなライフスタイルを提唱している。

撮影:清水 祐生