日本正式発表前の2021年の年末、GSオーナーである自動車評論家の森口将之氏、そしてBXとエグザンティアの現役のオーナーを招いて、新型C4ディーゼルモデルの試乗会を行った。新型C4を実際に見て、触って、乗った彼らの印象を、森口氏がまとめてレポートする。
真冬の海辺に新型シトロエンC4が、3台の歴代ミドルサイズとともに並んでいる。C4は3種類あるパワートレインの中から、業界内でも評価の高い1.5.ディーゼルターボエンジンを積んだモデル。これにGS/BX/エグザンティアのオーナーが試乗すべく、舞台が整えられた。
ここではBXオーナーの本田さん、エグザンティアを所有する伏見さんの新型C4の印象を織り交ぜつつ、GSオーナーの視点で書き綴っていきたい。
新型C4のスタイリングは、かつて僕も乗っていたC4カクタスからの流れをくむクロスオーバー的なボディに、GSを思わせる6ライトのファストバックスタイルを融合させた印象だ。今のシトロエン・デザインの源流を作ったC4カクタスと、戦後初めてゼロから設計されたミドルサイズたるGSのマリアージュ。シトロエン好きの気持ちを知り尽くしたような発想だ。
しかも3台と同じようにホイールベースが長い。ゆったりスロープしたリアウインドーの下に後輪がある。具体的には2,665mmで、同じCセグメントでベンチマークとされることが多いドイツ車より50mm近く長い。
おかげでリアよりフロントのオーバーハングのほうが長い。これも歴代ミドルサイズと共通している。エグザンティアを除けばファストバックであることも一致しており、195/60R18という細くて大径のタイヤはGSの145R15に通じる部分がある。
もっとも旧いGSから数えれば半世紀以上、もっとも新しいエグザンティアのデビューからも30年近く経っているのに、シトロエンの一員と違和感なく受け止めることができるのだ。
ボディサイズが全長4,375mm、全幅1,800mm、全高1,530mmと大きすぎないこともありがたい。長さはBXとエグザンティアの中間ぐらいに収まっているし、幅が1.8mに収まっていることも評価できる。
キャビンはまずモダンなインパネに目が行く。小ぶりなデジタルメーターと大きなセンターディスプレイを据えた眺めは、ボビンメーターのGSとは違う種類の前衛。エアコンスイッチをダイヤル式のまま残すなど、人間が扱う道具であることを忘れない配慮は嬉しいし、エグザンティアの車高調整レバーを思わせるATセレクターなど、ヘリテージ性も感じ取れる。
インテリアにおけるシトロエンのアイデンティティになりつつあるアドバンストコンフォートシートは、「ホールドがしっかりしているのにコシのある柔らかさ(本田さん)」「最近の車ではなかなか得られない柔らかさを感じた(伏見さん)」と、歴代ミドルサイズのオーナーも評価していた。
1.5.ディーゼルターボと8段ATは、ベルランゴに積まれているものと基本的に同じ。あの大柄な車体を軽々と走らせるパワートレインだけあって、力は十分以上。エンジン音はほとんど気にならないし、吹け上がりもディーゼルとは思えないほど滑らかだ。
その加速感は「すごくトルクフルで、8つのギアをどんどんシフトし、低回転だけを使って走って行く感じです。しかもどこでギアが切り替わっているか、体感ではわからないほどスムーズで、ストレスがありません」という本田さんの言葉で理解できるだろう。
新型C4には、C5エアクロスで定評のプログレッシブ・ハイドローリック・クッションが採用されている。この日集まった3台が装備するハイドロニューマチックの思想を受け継ぐだけあって、乗り味はまさに「蘇ったハイドロ」。特にうねりを通過した後のゆったりしたしぐさがそれっぽい。
ただし今回は、撮影場所の周辺を短時間ドライブしただけだったのも事実。伏見さんは「予想していたより良い車であることはわかりましたが、シトロエンの真骨頂は高速道路に乗って、ある程度距離を重ねてみてどうかなので、次は高速道路を走ってみたいですね」と付け加えていた。
ひと足先に高速道路を体験した僕の印象は、直進安定性は申し分ないうえに、サスペンションの揺らぎが街中以上に心地よいものだった。レーンポジショニングアシスト付きアダプティブクルーズコントロールをはじめとする ADAS(先進運転支援システム)も心強い存在だ。
新型C4でのクルージングは、快適という領域を超えて、快感の境地にある。アドバンストコンフォートシートやプログレッシブ・ハイドローリック・クッションといった新しい技術が、伝統の美意識や感性と融合して、シトロエンでしか描けない世界を表現している。歴代ミドルサイズのオーナーにとって、注目の1台になることは確実だろう。
ミドルサイズ・シトロエンを愛用する3人のオーナー
1971年GSクラブ 森口将之氏
自動車雑誌編集部を経て独立し、現在は日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員も務める。シトロエンは2CVを皮切りにCX、BX、C4、C4カクタスを乗り継いだ。GSはデザインや乗り心地だけではなく、ブレーキやハンドリングも優れていて、総合性能の高さに改めて感心しているそうだ。
1993年BX19TZi 本田 浩隆さん
実家の車がBXやC5だった影響で、自身も愛車にBXを選んだ本田さん。現在は2台目となる最終型BXを所有している。BXの魅力は、大きなウィンドウによる明るい室内と広い視界、フカフカだけど芯のあるシート、カラカラと乾いたエンジン音、都内の狭路でも困らない大きさ、なのだとか。
1997年エグザンティアSX 伏見 聡さん
兄と共にGSA、BX、ZXと乗り継いだ伏見さんは、正規新車最後の左ハンドル・ハイドロニューマチックと聞いて購入した97年エグザンティアSXを手放せないでいる。とんがり過ぎないが一目で判る個性的なデザイン、電子制御のないハイドロニューマチックなどがお気に入りの理由だそうだ。
2人の専門家の“推し”は、旧いシトロエンと新型C4の2台体制!
この特集の担当編集者である馬弓さんは、現在は2CV に乗り、かつてBXとエグザンティアも所有していた。僕以上に今回の企画を楽しんでいたかもしれない彼のC4&E-C4感を聞いてみた。
まず挙げたのは絶妙なサイズ。運転席に座ったときのしっくり感、十分なリアシートやラゲッジスペースなど、日々の買い物から週末のドライブまで万能なサイズと話していた。
見た目についてはミドルサイズ・シトロエンの前衛的なカッコ良さに、最新のシトロエンらしさを上手にアレンジしているとのこと。
実用的なのにカッコ良いという、彼が考えるキーポイントを満たす存在であるようだ。もちろんプログレッシブ・ハイドローリック・クッションがもたらす乗り心地にも触れていた。街中での柔らかさだけでなく、ハーシュネスの遮断が効いていることにも言及。旧いシトロエンと付き合う身だからこそ、ADASの充実も評価していた。
クラシック&ネオクラシックのシトロエンに乗る者にとって、最新のC4との2台体制を思い描いてしまうというという言葉に、笑いながら頷いてしまう自分がいたのだった。
文:森口将之 写真:阿部昌也 編集:馬弓良輔
Words:Masayuki MORIGUCHI Photography:Masaya ABE Editor: Yoshisuke MAYUMI