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『ウエストサイド物語』でミュージカル映画の歴史を変えたロバート・ワイズ監督が、再び挑んだ70㎜のミュージカル大作が『サウンド・オブ・ミュージック』です。

『ウエストサイド物語』でミュージカル映画の歴史を変えたロバート・ワイズ監督が、再び挑んだ70㎜のミュージカル大作が『サウンド・オブ・ミュージック』です。

オーストリアのザルツブルクに大ロケーションを敢行、ブロードウェイの舞台では表すことが不可能な、雄大な風景の中にトラップ・ファミリーの【愛と勇気】を描き出します。

舞台となる時代は、ナチス台頭の第二次世界大戦前夜、自由奔放な修道女見習いのマリアが、トラップ一家の家庭教師となるところから物語は始まります。このマリア・フォン・トラップと家族の話は、多少の脚色はありますが、実話に基づいたものです。マリアご本人の特別出演のシーンも、前半の方にありますので、お見逃しなく。

作詞オスカー・ハマースタイン2世、作曲リチャード・ロジャースの黄金コンビによる(他に『王様と私』『南太平洋』など)、耳に馴染んだミュージカル・ナンバーが物語を彩ります。特に《ドレミの唄》は、アルプスの山々からザルツブルク市内まで、ロケの効果が生かされた素晴らしいシーンになっています。

また、頑なに厳しい父親だったゲオルクが優しい心を取り戻し、ギターを手に歌うのが《エーデルワイス》。後半に描かれる音楽コンテストの会場でも合唱されたこの曲は、【平和と自由】のシンボルとなっています。

そして数ある楽曲のなかで、最も日本人にポピュラーな存在となったのが、嵐の夜を怖がる子供たちにマリアが歌って聞かせる《私のお気に入りMy Favorite Things》です。鉄道会社のCMで使われたことで、その旋律の美しさが知れ渡りました。

ゲオルクと結婚したマリアは、その時から7人の子供たちの母となります。主演のジュリー・アンドリュースは(前年には『メリー・ポピンズ』でアカデミー賞を獲得)美しい歌声と、母性を発揮した演技で多くの観客を魅了し、名実ともにハリウッドのトップスターになります。

もちろん、ゲオルク役のクリストファー・プラマーも、この映画が生涯の代表作となりますが、それだけで自分の俳優人生を語られることは本意ではなかったようです。

ザルツブルクの街にナチスの旗が掲げられ、ついにトラップ一家はアメリカへの亡命を決意します。祖国を後に、スイスに向かおうとしますが、そこにはナチスの眼が。

修道院から一家が逃走する、この見どころで登場するのがシトロエン・トランクシオン・アヴァン。前輪駆動者の先駆的存在というこの車は、世界の自動車雑誌編集者などによって選出された「カー・オブ・ザ・センチュリー」のベスト100選に入る名車です。実際に9人乗りのこの車にトラップ一家9名が乗り込んで、ここから映画監督ロバート・ワイズの真骨頂。思わずミュージカル映画であることを忘れてしまう、スリルとサスペンスが展開します。

シトロエン・トランクシオン・アヴァン

旧知の修道女たちの機転でナチスが一家を追跡出来なくなるこのエピソードは、サスペンスの中の最高のユーモアになっています。

【愛と勇気】を表すナンバー《すべての山に登れ》の唄声をバックに、トラップ一家はアルプスを行きますが、実際のトラップ一家はその後アメリカに渡り、全米各地を巡業する【トラップ・ファミリー・シンガーズ】として成功を収めます。

そうした実在の一家の人気もあり、映画はアメリカだけでなく全世界で大ヒットを記録。経営不振に陥っていた製作会社の20世紀フォックスを見事に復活させたのでした。

代官山 蔦屋書店 映像担当コンシェルジュ

吉川 明利(よしかわ・あきとし)

小学校6年で『若大将』映画に出会い、邦画に目覚め、中学3年で『ゴッドファーザー』に衝撃を受け、それからというもの“永遠の映画オヤジ“になるべく、映画館で見ることを基本として本数を重ね、まもなく49年間で10000本の大台を目指せるところまで何とかたどり着く。2012年より代官山蔦屋書店映像フロアに勤務。

イラスト:Naho Ogawa
撮影:SHIge KIDOUE