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「ジャッカルの日」は、同名の世界的ベストセラー小説の映画化です。

著者のフレデリック・フォーサイスは、自身のジャーナリスト時代に得た情報を元に、フランスのドゴール大統領に対し、国際的に暗躍したコードネーム【ジャッカル】という暗殺者が近寄ったという、【虚】とも【実】とも取れる物語を描き上げました。

映画化権はすぐに独立系プロデューサーのジョン・ウルフが獲得し、監督に『地上より永遠に』『わが命つきるとも』と、2度のアカデミー賞監督賞に輝く巨匠・フレッド・ジンネマンを指名、ロケーションを中心に監督が得意とするドキュメンタリー・タッチで、1973年に製作。日本での公開も同年9月に大々的にロードショー公開されています。

1963年、当時のフランス大統領ドゴールのアルジェリア政策に反発する、軍人を中心とした【秘密軍事組織】(OAS)は、政府と対立したあげくに大統領暗殺という過激な手段に出ます。待ち伏せをして、パリの街を走る大統領公用車シトロエンDSにマシンガンを放ち、ガラス窓は割れ、車は傷つきますが大統領は無事、暗殺は失敗に終わります。

シトロエンDSという車が、当時のフランスでいかに人気であったかを伺い知る場面として、閣議を終えた政府高官が車に乗り込む場面が出てきます。ズラッと並ぶシトロエンDSが映る場面はなんと壮観なことでしょう。
この暗殺失敗で追い詰められたOAS側は最後の手段として、政府警備側に顔の知られていないプロの暗殺者にその仕事を依頼、ここまでが映画『ジャッカルの日』で、小気味よく描かれる導入部です。

シトロエンDS

暗殺依頼に成功したOASは、あとはジャッカルにすべて任せ、組織自体は静観です。ひとり着々と暗殺実行に向けての準備を進めるジャッカルが不気味に映ります。

この映画の成功はキャスティングです。英国人の設定どおり、当時、無名に近いエドワード・フォックスというイギリスの俳優を起用、望遠レンズでのロングショットを多用し、彼を空港や駅の雑踏の中に溶け込ませまたことで生まれるドキュメントタッチの映像の効果は絶大で、そのスリルに目が釘付けです。

そして暗殺に必要な特殊なライフルを手にし、人里離れた森で試し撃ちをする場面が、圧巻の見せ場となっています。枝から吊るした西瓜を人間の頭に見立て、微調整をしながら1発、2発と試すジャッカルの姿にゾクゾクします。

映画が始まって1時間、ようやく登場するのが、フランス警察きっての切れ者ルベル警視。演じるのは髭オヤジの容貌で、あまり有能そうに見えない外見が魅力の、ミッシェル・ロンスデールという名優です。
ここからルベル対ジャッカルの、知能を尽くした壮絶な追いかけっこが始まります。

国際的に捜査範囲を広げ、ジャッカルの正体を徐々に掴んでいくルベルは、逐一政府側に捜査報告をしていきます。すると、もう追い詰めたと判断した楽観的な政府の役人は、彼をお役御免にしてしまいますが、この場面はどこの国も、役人は一緒だなと思わせます。

しかし、ジャッカルは再び姿を消し、ルベルは呼び戻されるはめに。
自宅にその電話がかかってきても、任務を解かれ爆睡するルベルを映すカットが、この映画唯一のほほえましい場面です。

プロの暗殺者のプライドで、殺人を犯し追われることになるのを覚悟で、ジャッカルはパリに潜入することに成功。そして、人前に出たがりのドゴール大統領が公の場に出てくるのを待つばかりとなります。

8月25日の【パリ解放記念日】こそが、その日。

映画はここから、実際の式典パレードの中で撮影したとしか思えない、セリフもほとんどなく映像の積み重ねだけでサスペンスを盛り上げるという、フレッド・ジンネマン監督の演出が光ります。

さて、ジャッカルはどこから特製ライフルで大統領を狙うのでしょうか?
それは映画を見てのお楽しみです。

代官山 蔦屋書店 映像担当コンシェルジュ

吉川 明利(よしかわ・あきとし)

1976年生まれ。
小学校6年で『若大将』映画に出会い、邦画に目覚め、中学3年で『ゴッドファーザー』に衝撃を受け、それからというもの"永遠の映画オヤジ"になるべく、映画館で見ることを基本として本数を重ね、まもなく49年間で10000本の大台を目指せるところまで何とかたどり着く。2012年より代官山 蔦屋書店映像フロアに勤務。

イラスト:Naho Ogawa
撮影:清水 祐生