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「こちら葛飾区亀有公園前派出所」、通称及び公式略称は「こち亀」と言い、1976年~2016年まで週刊少年ジャンプで連載されていたギャグ漫画。

「こちら葛飾区亀有公園前派出所」、通称及び公式略称は「こち亀」と言い、1976年~2016年まで週刊少年ジャンプで連載されていたギャグ漫画。

単行本は全200巻におよび、東京下町の亀有公園前派出所を舞台に主人公の警察官でありながら破天荒すぎる両津勘吉(両さん)を中心に個性豊かなキャラクターともにドタバタ劇を繰り広げる。
基本的にその時代の日本の文化・世の中を「大衆目線」で表現してきた作品で40年に渡る長期連載だったため今読み返すと当時流行ったテクノロジーやガジェットを振り返るだけでも楽しくまさに昭和から平成までの縮図がそこには存在している。

私は連載が始まった1976年生まれで、当時父親が好きで読んでいたので実家にはコミックがおいてあり小学校の4年生(9才)から読み始めて父親から引き継いで200巻までリアルタイムでコミックを買っていた。
私にとってのこち亀はマンガで読む最高の文化史料である。要するに高校時代に読みまくった雑誌Hot-Dog PRESSと同列である。
Hot-Dog PRESSからはファッションを中心としたちょっとチャラい文化を。こち亀からは時代背景を踏まえ鋭い洞察力で日本の未来予想を学べた。

また作者の秋本治は多趣味かつ興味があるものには積極的に取材をして作品に落とし込んでいる。
軍事ファンにはじまり、鉄道・プラモデル、ラジコン、クルマ、バイク等その他様々、作品にも度々クルマが登場している。
もちろんこち亀で初めて知ったクルマも多数ある。しかしそこはギャグ漫画のこち亀!面白おかしくクルマが登場するのである。

第40巻★東京住宅事情の巻では、東大卒で法律に詳しい超真面目な法条正義(170巻で凄苦残念に改名)が実は三重県松坂市から毎日新幹線通勤していることが発覚し、近く住んだ方が良いということになり両さんと共に行ったちょっと怪しいインチキ不動産のオーナーが乗っているクルマがシトロエンDS21である。

これを読んでいる方々なら既にお分かりだろうが、シトロエンDSは今なお20世紀のフランスの自動車産業を象徴するクルマと言っても過言ではなく、その昔フランス大統領やセレブが惹かれたクルマで今なおその前衛的なデザインは名車として賞賛され続けている。その名車が作品の中ではドアには商用車のように不動産屋の名前と電話番号がバッチリと書かれ、怪しいインチキ物件までの案内役として走っているのである。
このギャップが面白い。

シトロエン2CVとシトロエンDS21

第84巻★絵﨑教授の哲学の巻はクルマ好きなら是非読んで頂きたい。
初めて作品に登場する絵﨑教授。元々は両さんの同僚である中川の知り合いであのイギリスケンブリッジ大学の教授である。
唯一の趣味がクルマで恐ろしく運転が下手。また騙されやすくうっかり屋さんで移り気の激しい性格で最初はもちろんイギリス車で登場。
歴代のイギリス車を乗り継いだ自慢をするのだが、その性格故かうっかりとある理由でクルマをつぶしてしまう。
最後にはフランスのソルボンヌ大学の講師に決まった瞬間に颯爽とシトロエン2CVに乗り換えて登場するのである。

2CVに関してはもうご説明の余地もないかも知れないが、20世紀でもっとも影響力のあったクルマに与えられた自動車賞であるカー・オブ・ザ・センチュリーにもノミネートされたフランスの国民車である。長期連載のこち亀同様に1948年~1990年までの42年間大きなモデルチェンジのないまま製造されたロングセラー車である。

ここでは語りつくせないほどにこち亀の作品には様々なクルマが登場する。
色々な視点から読める漫画であるが一度クルマ軸で読んでみるのも良いかもしれない。
最後に第56巻に掲載されている「ニセ車販売店を探せ!」の巻はクルマ好きなら伝説の巻なので必見。
「フュラーリ」でピンときたらあなたも立派なこち亀ファンである!

代官山 蔦屋書店 クルマ・バイクコンシェルジュ

伊藤 辰徳(いとう・たつのり)

1976年生まれ。
代官山 蔦屋書店、クルマ・バイクコンシェルジュ。
世田谷にあったクルマとバイクの専門書店「リンドバーグ」に入社。
同社代表である藤井孝雄を師と仰ぎ、様々な経験を積む。2011年代官山 蔦屋書店オープンに合わせリンドバーグ全スタッフと共に同店のクルマ・バイクフロアに転籍し、本を中心としたフェア・イベントを企画し様々なカーライフの提案を行っている。

イラスト:Naho Ogawa
撮影:清水 祐生