恐怖、歓び、そして安堵。初めて2CVの洗礼を受けた同乗者がよく経験するのは、この3つの感情だ。登場から70年以上が経つこの車の多くがいまでも現役で、純真な人たちを怯えさせているというのは、ある意味では称賛されるべきことだ。
最初のプロトタイプは1939年に製作されたが、製造計画のすべてが第二次世界大戦勃発により中止された。戦後も計画は進められたが、一般公開はパリモーターショーの1948年になってやっと実施されたが、その奇妙な出で立ちと無駄のない仕様に対しては賛否両論だった。特にイギリスのメディアは、この質素な車を酷評していた。結局のところ、それは問題なかったのだが。フランス人たちが大いに気に入ったからだ。最初のころは、シトロエンからの供給が需要に追い付かなかったという。
その極端に柔らかいサスペンションは、起伏のある戦後のフランスの道路にマッチし、シンプルなデザインの中でエレガントさを醸し出していた。完全独立型の前後のサスペンションアームには、新型の慣性ダンバーが採用された。また、両サイドがロッド経由で相互連結されたスプリングが中央にマウントされた。適切に操れば、この小さなかわいらしいフランス車はワインディングで、笑ってしまうほど車体をロールさせながらも、驚くべきスピードを出せる。有名な話だが、デザインの草案はバスケットいっぱいの卵を積みながら、でこぼこした畑を安全に横切るためのものだった。
鉄をできるだけ使用しなかったことで重量は最小限に留まっている。それには、肉体的な快適さとは無縁の内装と、小さくても壊れない空冷の2気筒エンジンも奏功している。初期型の出力は9馬力で、4速マニュアルの前輪駆動だ。
年月が経ち、エンジンは375ccから425ccへとサイズアップし、最終的に現在のほとんどの2CVのエンジンユニットは435cc、または602ccの32馬力となっている。1973年のオイルショック後には、エコノミーカーとして復活を遂げ、ようやくイギリスでの販売が増加し始めた。
1970〜80年代には、様々なスペシャルエディションが登場し、 2CVの人気は続いていく。最初に出されたのは、白とオレンジ色の「Spot」で、その後にジェームス・ボンド映画『007 ユア・アイズ・オンリー』にインスパイアされて大人気となった黄色い「007エディション」、その後「Dolly」や「Charleston」のモデルが登場した。
共通する土台のおかげで、たくさんの兄弟モデルも生まれた。少しラグジュアリー感が欲しければ、「ディアーヌ」がある。骨格むき出しでプラスチック製ボディの「メアリ」は楽しさ満点のビーチカーだし、バン仕様の「フルゴネット」はとても役立つパートナーになる。風変わりなオプションには、スラウ地区の工場で製造された非常にレアな「ビジュー」や、便利さが格別のツインエンジンで四輪駆動仕様の「サハラ」がある。
第二次世界大戦による破壊を無傷で免れたプロトタイプはたったの1台だけだったが、2CVの見事なサバイバル本能は継続し、2CVはその後も42年間に渡って製造されることとなる。1990年に2CVの最後の1台がポルトガルの工場から出てくる頃には、それより後発の「ディアーヌ」「ヴィザ」「LN」「LNA」はラインナップから姿を消していた。2CVのサルーン版はおよそ380万台が製造され、世界中の派生バージョンもすべて含めると900万台にも及ぶ。
純正初期仕様の”波型ボンネット”はとても魅力的だが、改良後のエンジンや使い勝手の良い後期仕様の2CV6(「6」は602㏄エンジンの意味)の購入が賢明だろう。コミュニティは活発で、パーツ供給量も天下一品だ。公道で猛烈にポジティブに注目を浴びるこの車を選択肢のひとつに入れるのも悪くなさそうだ。
●参考相場情報(2018年イギリスでの相場)
2CV6モデルは、純正で使用に問題ないコンディションなら約6,000ポンドから。公道を走れるだけでよければ3,000ポンド以下でも見つかるが、完全にリビルトされた個体だと、10,000ポンドまで上がってしまう。1953年以前の”波型ボンネット”仕様は非常にレアで、30,000〜40,000ポンドはするだろう。1953年以降のモデルなら、8,000〜15,000ポンド程度で、スラウ工場製造モデルはもう少し高い。究極のコレクター仕様の2CVは、ツインエンジンで四輪駆動の「サハラ」だ。生産台数はたったの700台以下で、市場価格は60,000ポンド辺りから100,000ポンド以上となっている。
●注意点
ご多分に漏れず、最大の敵は錆である。イギリスの車はシャシーが交換されていることが多いため、毎回チェックすべきだ。薄い鉄板は傷みやすいため、腐食などがないかボディもよく調べよう。主に注意すべき点は、バルクヘッド、シル、フロアだ。エンジンは頑強だが、オイル交換は3,000マイル毎に必要だ。3速ギアのシンクロは、特にヘタり易い。サスペンションのキングピンも、1,000マイル毎にグリーシング(潤滑油)することを忘れずに。
文:Octane UK まとめ:オクタン日本版編集部