今までの乱痴気騒ぎのロックン・ロールに別れを告げた、トップバンドとしてのミッシェルの孤独が垣間見える、本アルバムを象徴する一曲とも評されます。
冒頭から、冷たい空気を切り裂いていくようにアベフトシのテレキャスターが鳴り響きます。
テレキャスターでのカッティングはその軽やかさも特長ですが、ここではそれを捨てるように、乾いたヘヴィネスがサウンドを覆います。
その裏で、ウエノコウジのベースは淡々とうねり続けます。
そしてクハラカズユキが叩く獰猛なビートは、ビッグバンドになってもミッシェルがその美学を失っていないことを証明するように響きます。
続いてスポークン・ワードと言うのでしょうか、嗄れ声のチバユウスケの言葉が矢継ぎ早に飛んで来ます。
いつものようにがなり立てる様に歌うチバの姿はなく、スピードに乗って吐き捨てるように詞が叩きこまれます。
冒頭「白いタイル貼りのトンネルを抜けてゆく」主人公は、乗り合いのシトロエンバスに乗って旅をしているようです。
シトロエン・Hバンのバスタイプでしょうか。
しかしここにはその洒脱なイメージや愛らしさはありません。
その車体があくまで鋼鉄の塊であることを思い出させるように、楽曲は緊張感を保ったまま疾走します。
主人公は窓から流れるトンネルのライトに「85人の映画スターの名前」をつけながら外を眺めています。
次のパートでは、かつてリリースした楽曲に登場した人物たちの名前が登場します。
「マリア」「アンジェリカ」「エルビス」・・・チバの書く詞にはこういった人物名がよく登場しますが、具体的に何を指しているのかは謎です。意味はないのかもしれません。
が、この楽曲のように羅列される事は稀で、ここでは自分たちの過去を相対化しているようにも聴こえます。
そして繰り返される「RUN CHICKEN CARNIVAL」これはどういう意味でしょうか。
「乱痴気 カーニバル」だとすれば、合点がいきます。
これは乱痴気騒ぎからの決別、過去との決別の旅なのではないでしょうか。
(アルバム3曲目「暴かれた世界」でも、チバは「パーティーは終わりにしたんだ」と歌っています)
しかし楽曲は次第に熱を帯びていきます。
ロックン・ロールの熱は消える事が無いばかりか更に勢いを増します。
どこかでパーティーは続いているように。
最後はシカゴ、ニューヨーク、、トーキョー、バンコク、マリー、キャンディー・・・様々なものに「バイバイ」と別れを告げていきます。
別れを告げた主人公はどこへ向かうのでしょうか。それは明示されません。
最後まで明瞭にメロディを歌う事のないチバと孤独に走るシトロエンバスとがオーバーラップし、「乱痴気騒ぎ」と「孤独」という交わる事のない世界が平行線のまま疾走していきます。
そしてチバは最後に叫びます。
『シトロエンの孤独は続く』。
楽曲は獰猛さと不穏なムードを保ったまま終わりを迎えます。
このシンプルで謎めいた「シトロエンの孤独」は、その後のライブでも定番となりました。
今後のバンドの運命を占うような傑作アルバムの導入としても完璧であり、また、『シトロエン』という言葉の持つ印象の中でも前衛的な部分を強く想起させ、そのイメージを更に広げて行くような、イマジネーションを刺激する名曲と言えるでしょう。
代官山 蔦屋書店 音楽フロアスタッフ
髙橋 佑太(たかはし・ゆうた)
イラスト:Naho Ogawa
撮影:清水 祐生